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 2013.03.12 up

岡潔講演録(5)


「人とは何かの発見」 岡潔著

【10】 人類の思い上がり

 人はこんなものなんです。それで何よりも皆さんに御相談したいんですがね、今、人類の思い上りは目に余る。このまま捨てておけば千年も経たない内に人類は亡びてしまうだろう。

 実際、造化にそう云う風な人の心があって、そして、ああしよう、こうしようと云う風にするものならば、造化はそんな事しませんが、もしするんだったら、人などと云う悪い動物は一刻も早く亡ぼしてしまわなければ地球上の動物や、植物はひどい目に逢う、実にひどい目に逢うと思うでしょう。

 だから自分の無知無能を知って、このひどい思い上りだけは止めようじゃありませんか、そう提議したい。まず日本人だけがそれを止め、次に世界にそれを提議するのが人類に対する急務だと思う。その為には、自分が如何に無知無能であるかを良く見ればよい。これは大脳前頭葉を使ってやれる。意識を通してやれる。

 自然科学などと威張ってましたが皆間違ってるでしょう。その上に組み上げた一切の文明などと云うものは、有りやしません。この、自然は何故か分らないが、造化は物質に法則あらしめているんです。それだけを知ってそしてその法則を探り、それを組み合わせているのが人類の文明です。全然威張られやしない。

 人がこの思い上りを捨てたら、人は如何に生きるべきかと云う事を、又思い出すだろう。で、これが一番言いたい事だったんです。

(※ 解説12)

 「人類の思い上がり」、これが人類滅亡の危険性の最大のものであると岡はいう。日本人は本来「情」の民族だから、昔から人と人とが、深い思いやりの「和」の心を持って暮してきたのだし、自然に対しては自然のこまやかな「情緒」を感じつつ、自然に逆わず順応して生きる文化を最もよく発達させてきたのである。

 ところが今世界をリードする西洋文明は「意志」の文明であるから、どうしても人と人とが対立関係の個人主義であり、自然に対しては自然を支配し、時間空間を征服しようという意欲を潜在的に持っている。しかも、日本や東洋よりも大脳前頭葉が極度に発達していて精密で科学的な頭を使うから、このように闇雲に物質文明を肥大化させたのである。

 しかし、これが岡のいう「思い上がり」である。

 今の世界を見てみても、それを指摘し修正できるのは、一度西洋文明を経験した日本以外にありそうもない。だから岡は、「まず日本だけがそれを止め、次に世界にそれを提議するのが人類に対する急務である」、といったのである。

 そういう意味で日本人である我々は、人類の未来への重い責任を双肩に負っているのである。

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