「1971年度京都産業大学講義録第5回」
【1】 人は1日1日をどう暮らす
こういう問題があります。『人は1日1日をどう暮らせばいいのか』
この問題は普通ならばあまり切実な問題ではありません。放って置いても自ずからよろしきにかなうからです。自然によいように人らしく暮らしている。
ところが、今は普通の時じゃない。日本は終戦後アメリカから大量に『唯物主義』に『個人主義』を取り入れた。人は物質的自然の中に住んでいるというのは間違いであって、心の中に住んでいるんです。魚が水の中に住んでいるように心の中に住んでいる。ところがその心はもはや澄んだ水ではなく、大量に唯物主義、個人主義のはいっている水である。そういう状態なんですね。
ところで、唯物主義もそれから出て来る個人主義も非常に悪いんです。西洋人にも随分悪いらしい。離れて見ていて充分よくわかりませんが、水が濁ったとき魚が生きることに苦しむ、生きて行くことが苦しいという有様が、到る所に出ているように思います。
しかし西洋人はまだ ― これはもう、始めからこんなふうなんですから ― こういうものに対して云わば抵抗力が出来ている。しかし東洋人はそうじゃない。これはごく近頃になって西洋から取り入れたものです。だから東洋人にとって、これは非常に害があるんですね。
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