今まで私の解説にかこつけて、目的の「岡潔講演録」を発表してきたのだが、そのことによって今までベールに包まれていた晩年の岡潔の世界を、いくらかでも皆さんにお伝えすることができたように思う。
そのあとは狂人といわれ非常識といわれ、はなはだ難解だといわれる岡潔の世界を、皆さんがどれだけ根気よく時間をかけて向き合いつづけてくれるかに全てはかかっている。特に岡に関しては「読むこと」と「わかること」との開きは想像を絶して大きいのである。
次に残された私にできることは何かを考えたのであるが、それならば次は実際に岡の謦咳に直下に接してもらうことである。岡に対面することは今となっては無理な話であるが、幸い残された録音テープというものがある。そのテープを聞くということは、時空を越えて岡の内面に直接つながることである。天の配剤というのだろうか、当時すでに録音テープという文明の利器が存在していたのである。
その岡の残した録音テープであるが、これからご紹介する一般に向けて語った講演テープ、さらに京都産業大学の学生向けに語った講義テープ(約170本)、そして岡の家で行われた青年学生光明会や岡の身近かに集う人たちに語った講話テープ(約90本)と、主に3種類のテープ群が存在するのである。
その中でも一般向けの講演テープは実際は数多く存在するはずだが、現に残っているものは少なく、私の手許にあるもので10本程である。というのも、岡が最も強く警鐘を鳴らした時期は1968年と69年といってもよいと思うのだが、68年までの講演はほぼ活字になっていて、テープ自体はそれを発表した出版社等に今も眠っていると思われる。
一方、1970年以降は岡はひろく警鐘を鳴らすことを諦め、最終的には第15識の世界まで心の世界の解明へとふかく別け入っていくのであるから、従って一般向けの講演自体が少なくなるのである。だから、この「秋が来ると紅葉」の講演が行われた1969年に、最も集中して講演テープが残されているのである。
さて、この「秋が来ると紅葉」という録音テープは、既に「岡潔講演録」の中で抜粋の形で発表しているものである。私は38歳の時、岡が没して丁度10年目に夜突然目がさめ、「よし、岡家へ行こう!」と思いたち岡家を訪ねたのだが、この録音テープはその時岡家に秘蔵されていたもののうちの1つである。
私はその後、このテープを通勤の車のなかで何度も何度も繰りかえし聞いたのを今も憶えている。このテープを聴くことによって、晩年の岡潔の真実のすがたを世に問う岡潔思想研究会が事実上発足したといっても過言ではないのである。
今回、岡先生の長男の岡煕哉(ひろや)さんのご理解とご承認を得て、この録音テープを発表できることは、私にとって望外のよろこびである。
「岡潔講演録一九六九年」を無料でプレゼント
私のホームページ「岡潔思想研究会」を愛読して頂いている方でご希望の方に、岡の晩年未発表の講演録一九六九年をプレゼントいたします。このもとの録音テープは30年程前に岡家で見いだし、20年程前に文字に書き起こし、いつかは出版をと大切に暖めてきたのですが、いまだに出版が実現せず私も来年70才になるため、それならば身近な方々に是非読んで頂こうと思い立ったものです。
ご希望の方はハガキかケイタイ(メールは不可)で横山賢二までご連絡下さい。宛先は「研究会情報」参照。
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