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横山賢二 新聞記事


【1】「情」の文化

高知新聞 1992年(平成4年)2月29日(土曜日)

 

 人がよくペットを飼う。そうすると「情が通じる」という。この「情が通じる」という言葉ですが、いったん情が通じてしまえば、相手が人だろうと動物だろうと、それに対して悪いことは決してできなくなる。しないのではなく、できないのである。

 そうすると、子供が友達に対していやがらせをするのを「いじめ」と言い、大人の社会では「敵対」と言い、自然に対しては「環境破壊」と言うのだったら、今持ち上がっているほとんどすべての社会問題はこの「情」というキーワード一つで解決されてしまいそうに思う。

 これら社会問題に対応するとき、法律の規制だけでは不十分である。その理由は、法律にはこの「悪意を決して持てなくなる」といういわば自動制御装置が付いていない。人は法律は守らなければならないと思っていても、都合が悪くなれば、その法律の網の目を簡単にくぐり抜けてしまう。だから社会を安定させるには法律だけでは駄目で、「情」が大切というわけである。

 母親の愛なくして子供は育つだろうか。ペットがかわいいのはどうして?自然を見れば心が安らぐのはなぜだろう。人はこれを「愛」と言うが、実は「情」です。「愛」は愛憎といって憎しみに変わることもある。

 日本は昔よりこの「情」を何よりも大切にしてきた。日本文化は一言で言えば「情の文化」。最近の日本がうまくいかないのは、この「情」という今では古くさくなってしまった言葉を忘れ去ったからに外ならないと思う。

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