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横山賢二 新聞記事


【23】似て非なるもの 愛と情を考える

高知新聞 2002年(平成14年)4月11日(木曜日)

 

 私は以前から、われわれ日本社会の特質は「情」にあると言っているのですが、こうして社会が荒廃した今、よく耳にする言葉は「愛を大切に」というものです。それで、この愛と情との違いをここで考えてみたいと思います。

 まずは愛です。この言葉は無論、中国の漢字からの借用ですが、概念は西洋からきたものです。その使われ方は、テレビでよく見かける「愛と憎しみのドラマ」というのが一般的です。つまり、愛は何かの拍子に突然「憎しみ」に変わり得るというのです。

 考えてみれば、これほど恐ろしいことはありませんね。しかし、西洋や今の日本の映画や小説はおおむねこれを取り扱っているのです。

 次に、愛は一人に集中するのが原則です。分散した愛なんて偽りの愛と言わざるを得ない。だから私には、「博愛」という言葉がいまだによく分からないのです。

 それでは次に情を見てみましょう。情の第一の特徴は決して「憎しみ」に変わらない。親子の情、夫婦の情は生涯不変です。

 第二に、情は分散しても少しも減らない。先の親子や夫婦の情から、師弟の情、友情、人情と広がっていきます。また、日本では風情や風流といいますから、動植物や無生物にまで情は及びます。

 ですから、愛と情とは似て非なるものであって、日本でいうと愛とは実は情のことではないでしょうか。なお情は喜怒哀楽の感情とも峻別(しゅんべつ)すべきものです。また、西洋でいうアガペ(神の愛)が、この日本の情に相当しそうに思うのですが。

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