「1971年度京都産業大学講義録第6回」
【1】 日本がわかるヒント
戦後の日本の非常に目につく、間違っていることの1つに、こういうことがあるんです。戦後日本に生まれて来た人達に、日本というものを全く教えない。家庭も教えない、学校も教えない、社会も教えない。だから若い世代は少しも日本というものを知らない。
これは教えるべきだ、そう思ってたんです。ちょうどその時、荒木先生(京都産業大学総長、荒木俊馬氏)からお話があって「うちの大学へ来て、数学は教えなくてもよいから教養を教えて欲しい」そう云う申し込みがあった。それで、ちょうどよい場所が得られると思ってお引き受けして、そして日本というものを教えようと思って始めたのが ― この講義を始めたわけで、今年で3年目です。
しかし本当は日本くらいわかりにくい国はない。わたしもよくわかってないのです。わかってないのにどうして教えられるかと云いますと、批評家の小林秀雄さんと云う人、ご存知でしょう、あの人、流石に上手い標題を打ってる。「考えるヒント」と云う。それでなるほど、それじゃ「日本がわかるヒント」と云うものを教えりゃいい、こういうので、そのヒントをあれこれと教えてきたのだが、あなた方に対しても先週迄はそうだったんです。
ところが日本というものが昨日わかりました。だから今日からはヒントではなく、それをお話しよう、そう思ってるんです。これ迄お話したことは総て日本がわかるヒントです。役には立ちます。
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