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2017.11.09up

岡潔講演録(28)


「真我への目覚め」

【15】 前頭葉の抑止力

 一口に言って、どんなふうか。例外はあるが、一般に、大会社になればなる程、その経営者例えば、社長さんは、自分はそうしてはいけないとわかるのだけど、それをしないではおれないのだと、こう言っているというのです。実際、その言葉通りだとして、これはどういうことなのか、大脳生理学に聞いてみます。

 大脳生理学のいうところによりますと、哺乳類には、本能とか、それに伴う感情とかが時を誤り、度を過ごさないための自動調節装置というのがついている。しかし、人にはそれが取り払われてしまっている。その代わり、人には大脳前頭葉というものがある。動物で大脳前頭葉を持っているのは、人以外に猿があるが、猿のは、ごく発生当時で非常に小さく言うに足りない。

 ちゃんとした前頭葉を持っているのは人だけで、人は自動調節装置の代りに、この大脳前頭葉を使って、いけないものはいけないと知って抑止して、やらないようにする。人にはこの大脳前頭葉の抑止力があるのです。但し、自動調節装置は自ら働くが、抑止力は働かそうとしなければ働かない。人がこの抑止力を自主的に使わなかったら、人としての品位を維持することができない。のみならず、動物よりはるかに下等なものになってしまう。

(※解説15)

 この辺からは小我の「知情意」を説明していくところであって、先ず餓鬼道(知の異常)、次に畜生道(情の異常)、最後に修羅道(意の異常)の順である。

 あの時代、昭和の絶頂期ではアメリカに教えられて小我の価値観が日本でも花盛りの時代であったから、少し言い過ぎかも知れないが、人の欲望を最大限に刺激することが当時の経済界のやり方だったといってもよいのである。そういう世界を餓鬼道というのだが、岡はその時代の「社長さん」を持ちだしてきているのである。

 岡の結論は、人としてはその餓鬼道は抑えなければいけない。それを抑えるのは大脳前頭葉の抑止力だと岡はいいたいのである。「人がこの抑止力を自主的に使わなかったら、人としての品位を維持することができない」と。

 最近、確か東北大学の川島隆太教授なんかが、「大脳前頭葉にはエゴイズムを抑える抑止力がある。それを行使しなければ社会秩序は維持できない」などと言い出しているようだが、これは別に新しいことではなく、岡と親交をむすんだ東京大学の脳医学の権威、時実利彦先生が当時からいっていたことであるし、もとをたどれば前世紀以来の医学の定説だと岡はいうのだから、ここでも今の脳科学の人間観の皮相さが改めて目につくのである。参照、講演録(7)の9

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