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2023.06.07up

岡潔講演録(30)


「岡潔先生と語る 」(2)- 西洋文明の限界 -

【13】 第二の心のよく働く教育

 (岡)赤ん坊を見てみよう。私自身四月生まれだから、自分を例にとって四月生まれとすると、数え年で三つまで、つまり生まれて三十二カ月の間には、ふつうにいう自己、つまり「自分を意識しているということ」は見られない。これが童心の時期である。といっても、ひとくちにいえばそうだということで、くわしく見れば、自分という意識は、生まれてから六十日くらいの子の目の中にすでに動いていることがわかる。ふつう自分と思っているような自分は消し去っても、なお自分は残る。これが本当の自分だといえる。この自分を真我と呼ぶことにする。

 自我がどんなふうにして出来ていくかと云いますと、生まれて第四か年になれば、時間、空間というものが出来ていく。それから運動の主体としての自分というものを意識するようになる。しかし自他の別はまだ意識できない。第五か年になりますと感情、意欲の主体としての自分というものを意識するようになってくる。これが自我の本体ですね。感情、意欲の主体。そうすると自他の別がつくようになってくる。この自他の別がつくようになってくると、つまり生後第五か年になると、自他の別がつきますから、自分を後にして(ひと)を先にするように教えなければいけない。

 今は批判精神などと云って小学三年くらいから批判をやらせてるようですが、これは大変な間違い。そうすると(ひと)の悪いところを見て、これを非難するようになる。これを小人と云うんですね。人は(ひと)の長所を見て、そしてこれを誉めるということに止どめておかなきゃいけない。これが君子なんで、今の教育、ことに社会の教育は、この批判ということについて全く間違えてるんです。

 それから、第二の心の働きでいろいろわかる、それが情緒ですね。情緒のうちでもとりわけ大切なのは懐かしさという情緒、それからかわいそうだという情緒、こういったものが基本的に大事です。それを小学校の時分によく育てなきゃいけない。小学校の時分にいろいろ情緒がわかるように教えて、何よりも人の心の美しさがよくわかるように教えなきゃいけない。それを今の教育はしないものだから、頭の発育がよくないんですね。それで知、情、意ともによく働かない。これは第二の心がよく働かないからで、その原因の第一は、教育が自己中心ということを大事にして、自我抑止をやらさないこと。第二は、情緒というものを大事にして、これがよくわかるように教えないこと。そういう点にあると思うんです。

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