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2023.06.07up

岡潔講演録(30)


「岡潔先生と語る 」(2)- 西洋文明の限界 -

【22】 天皇、防衛、三島の割腹

 (男性)先生は天皇制を認められてるようですけど、それはどうしてですか。

 (岡)あのね、わたしは万世一系の皇統というものは万邦無比だと思ってる。で、万世一系の皇統というものが本当に好きなんです。で、認める認めんという知的な問題じゃなくて、好き嫌いという情的な問題です。日本的情緒のうちに、天皇制というものがあると思う。歴史的にですけどね。どんなふうに万邦無比かって説明すると、知的になりますが。西洋の君主と日本の天皇とは種類の違ったものです。それは西洋は第一の心の世界にあり、日本は第二の心の世界にあるからです。天皇が日本を「しらす」というのは、心がみんなと一つになるという意味であって、統治するという意味ではないんです。そういうのは西洋には無いんです。この点から違ってる。

 (女性)三島由紀夫の割腹の事件ですね、あれをご批判頂きたいと思うんですが。

 (岡)三島由紀夫は偉いやつだと思います。日本の現状が非常に心配だとみたのも当たっていますし、天皇制が大事だと思ったのも正しいし、それに割腹自殺をするということは、本当に勇気がなければ出来ないことだろう。それをやって見せてるし、本当に偉い人だと思います。

 (女性)百年後戻りした思想だと云う批判がございますが、それは当っていないとおっしゃいますか。

 (岡)間違ってるんですね、西洋かぶれして。

 戦後特に間違ってる。個人主義、民主主義、それも間違った個人主義、民主主義なんかを不滅の真理かなんかのように思い込んでしまってる人が、ジャーナリズムが、云うんです。若い人達には割合感銘を与えてるようですよ。かなり影響はあったと思います。

 (司会)ああいうことは第二の心に目覚めなきゃ出来ないということですか。

 (岡)第一の心じゃ出来ませんね。ああいう死に方は第一の心じゃ出来ませんね。

 (司会)今、天皇制とか三島事件なんかのお話がでた訳ですが、今日はみなさん大部分の方が選挙(統一地方選挙)を済ませて来られたんじゃないかと思いますが、そういった身近かなことについてでも、何かお聞きになりたいことはありませんか。

 (岡)選挙もあれ個人主義。あの政治の形態は間違ってるから、早晩変えなきゃいけないんです。明治以後取り入れた。小我が自分ならあれでよろしいが、そうじゃないんだから、あれじゃいけませんね。

 (男性)先生は投票されない訳ですか。

 (岡)いやあ、しますよ変えてしもうまでには大分みんなによく知ってもらわなきゃいかんから、時間がかかる。それまでの間はしますよ。総て現状に合わせてしか仕方がない。

 (司会)その選挙ですけれども、民主主義を不滅の真理であると考えている人が多いと思うんですけれども、具体的には・・・

 (岡)今もう全く東洋について不勉強だから、西洋しか知らない。

 (司会)差し当たりどういうふうに変えて行ったらよいとお考えですか。

 (岡)差し当たり天皇に道徳だけを持ってもらうんですね。西洋の文化で、文化と云えば学問、芸術。学問は真、芸術は美だから、善が欠けてる訳です。政治もそうです。それで、西洋の文明は道徳抜きの文明。道徳とは何かと云ったら、何よりもそれが道徳的である為には、それが無私でなければならんということを知らんのだろう。西洋人に一人も、道徳の根底は無私であるということを云った人はいない。そんなのを真似して、道徳抜きの政治をやってるんだから、差し当たって天皇府を復活して、道徳だけをそこでやってもらったら、手始めにはそれがよいでしょう。

 おしなべて道徳というものを非常に低く今考えてますね。これは改めなきゃいけない。西洋の真似です。西洋人には道徳というものがどうしても本当にはわからない。それで軽くみるんです。

 (男性)日本の軍国化というものは、どうお考えでしょうか。

 (岡)自分の国は矢張り自分で守るほかないでしょうね。現状では守るほかないでしょうね。世界の有様を見てますと、軍備を全くやめてしもうということは国の存立にとって非常に危険だということ。あちらこちらで目にしますね。所詮軍備はいるでしょうね。しかしアメリカが守ってやろうと云ってくれてるんだから、守ってもらうのが一番得じゃありませんか。(笑)経費は要らないし。しかしいつまで守ってくれるかはわかりませんから、結局は自分で守るほかないでしょうね。ともかく、軍備を問題にする人は、国というものが無かったら、個人の幸福というものもまた有り得ないのだということを知るべきです。それを知らんのです。

 (男性)さっきの話ですけど、岡先生は天皇制を肯定されてますね。

 (岡)ええ、肯定って云うより、僕は天皇が好きです。

 (男性)それで、天皇制で天皇陛下に道徳的なものだけを持ってほしいと云われましたね。

 (岡)ええ、ええ、道徳的なものをやって頂くといいと思いますね。

 (男性)そうした場合ね、天皇陛下と云われても一人の人間ですね。人並み以上の道徳的なものを要求される訳ですか。

 (岡)時々は教育勅語のようなものを出して、行く方向を示したり、そういうことをやって頂くとよいんですね。涜職(とくしょく)する大臣なんかが出たら、非常に心配なさる人が矢張り一人は要る。なんとも思ってやしませんからね! で、大臣が賄賂を取るというふうなことをやったら、陛下は大変ご心配なすって、総理大臣あたりに、「あれはどうしたのか」と御下問になる。それでよい訳です。そういう人が全く欠けている。

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