「人とは何かの発見」 岡潔著
【 7】 創造のメカニズム
行為だけに付いて云いましたが、内面的なものについても同じ事です。例えば私本を書いている。本を書こうと思って原稿を書きます。その時、大体こんな事を書こうと思って書き始める。そうすると文章になって現われる。それを良く読んでみて、そしてその時始めて、自分は、こう云う事を書いたのかと分る。
俳優の台詞のように、始めから用意していって、その通り人の話しを、台詞を用意して行ってするのではなく、人が本を書くのは書く前から分っているのではなく、書いて了ってから読み合わしてみて分る。
で、これも何処まで自分がしているのか、何処までして貰っているのか、どこからしているのかはっきり区別はつかない。はっきり自分がしているんだと云えることは、この、一旦、文章になったのを読み直してみる、この時は意識を通して読みます。
そしてこれで良いんだと思ったり、ここは直さなければいけないと思ったりする。その辺まで来ればもうはっきり自分がしてるんですが、何もないものが文章に現われていくところは、一体どこまで自分がしているのか、どこまでを造化がして呉れているのか丸で境目がない。人と云うものはこう云うものなんです。
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