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 2012.10.21 up

岡潔講演録(1)


【10】 世界を救う道

 何しろ難しい問題です。松とか竹とかがわかるのは知だといって放ってあるでしょう。これが世界の人の目です。はなはだここは見にくい。よく見てみると情がわかるからです。松の趣というものが情でわかるから、それで松とか竹とかが教えられるんですね。

 情が働かなかったら教えようがない。盲に自然を教えようとするようなもの。知の地図の上に描くのが意志であり、情あるが故に言葉も有り得る、そして形式も有り得る。それが知。根本は情だということを充分自覚してもらわなければいけない。

 人本然の情に従うのが道徳である、といった人が一人もいないというくらい人類は馬鹿なんです。それで世界がうまく治まる訳がない。だけど一人もいませんよ。

 儒教なんか見てみますと、仁が基だといっているのに、その仁が情だとはいっていないんだから、余程わからないのですね。仏教の修行を見てご覧なさい。意志で修行しようとする。それで多くは難行、苦行です。大抵そうです。

 情が本体であるということを知って、まっ先に教育を変えなければいけない。学校教育もですが、家庭教育を変えなければいけない。赤ん坊の時は情の中に住んでいますが、生まれて3ヶ月は「懐しさと喜びの世界」ですが、これがずっと続けば良い。成年ぐらいまで続けば良い。

 成年ぐらいまでずっと「懐しさと喜びの世界」に住むようにするのが家庭教育です。そして、これさえできていれば、あとの教育は簡単なものです。こんなこと直ぐできる。気付かないのですね。だから、みんな知っていただきたい。

 みんながそうなる為には、一人一人が先ずわかってもらいたい。わかる為には自分の情の目で見ることですが、いちいち見て成程とわかったら、まだわかってない人にいう。そのやり方なら初めは極く少しの人ですが、直ぐ広がる。そうしてもらいたいと思う。

 世界を救う道は日本人ほどやり易くはないだろうけど、結局は情が人であると教えることです。ヒューマニティーが道徳に一番近い。それだのにカントは「実践理性批判」、理性というようなものが道徳に近いという。見当違いです。

 赤ん坊は理性など働かしはしません。こころの世界に住んでいる。むしろ、あんなものを働かさないから、こころの世界に住んでいる。真情の命じるままですね。それが道徳であり、それが幸福なんです。

(※ 解説24)

 家庭教育は子供が成人するまで「懐しさと喜びの世界」から外に出ないようにすることである、と岡はいう。そういう世の中になってくれれば、この私はどれほど嬉しいかわからない。これが岡の教育論のシンプルな帰着点である。

 そういった日本の子供達が生い立って、今直面している人類の滅亡を喰い止め、世界を真の平和に導いていくことに立ち上がってくれることを、私は夢見ている。その前に先ず、子供ではなく大人が目覚めなければいけないのである。このことが30万年の心の歴史を持つ日本人の、義務であり使命であると岡はいうのである。立ち上がれ、日本人!!

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