「自然科学は間違っている」(1) 岡潔著
【 7】 無差別智(直観)
それで仏教に聞いてみましょう。それじゃあ人は見ようと思えば見えるのは何故であるか。それに対して仏教はこう答える。
人の普通経験する知力は理性のような型のものである。これは意識的にしか働かないし、わかり方は少しずつ順々にしかわかって行かない。
しかし稀ではあるが、たとえば仏道の修行の時とかそういった場合に、これと違った型の知力が働く。無意識裡に働いて、一時にパッとわかってしまう。こういうのを無差別智というのです。
無差別智の智は知るという字の下に日という字を書きます。この下に日を書いた知力といえば知、情、意に働く力という意味です。だから知だけではなく、情、意もそうですね。これしかし、みな同じであって無意識裡に働くんです。そして一時にパッと完了してしまう。そういうのが無差別智です。
無差別智には四種類あります。大円鏡智、平等性智、妙観察知、成所作智。四つありますから四智というのです。
さて、人が見ようと思えば見えるのは四智がことごとく個に働くからと、仏教はそういいます。立とうと思えば立てるのは妙観察知が個に働くからだと、そういいます。人の知覚、運動は全て無差別智が個に働くからと、それでできるのだとそういうのです。
人が観念することができる、たとえば哲学することができるのは、大円鏡智あるによる。人が認識することができるのは、妙観察智あるによる。人が推理することができるのは、平等性智あるによる。人が感覚することができるのは、成所作智あるによる。こういうのです。
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