「歌で読みとく日本歴史」
第2部 「神代(かみよ)の文化」
「昭和への遺書」岡潔著
1968年6月
【4】神代調(かみよちょう)
歌や俳句によって日本史を見てみよう。神代のものは実
に雄大である。
八雲立つ出雲八重垣妻ごみに
八重垣つくるその八重垣を
今一度言うが、天地に充ちる澎湃(ほうはい)たる喜び
である。前に言ったように、胡蘭成氏は、このすさのおの尊の歌と詩経に於ける舜の詩とは人
類の持つ最大の二つの文学であると言っている。舜の詩とはどういう詩のことかよく知らな
い。私の知っている舜の詩は南風の歌だけである。
南風の薫れる以てわが民の怒りを解くべし
南風の時ある以てわが民の富を厚うすべし
これも大文学だと思う。そして全く神代調である。人麿、赤人位までは
実に雄大である。神代調と言ってよい。
もののふの八十氏川(やそうじがわ)の網代木(あじ
ろぎ)に
いざよふ波の行方知らずも (人麿)
人麿は氏の名を現わすなどというこせこせしたものが、
文字と共に、周かなんかから日本にはいって来たことを嘆いているのである。だから神代には
そんな濁りは無かったのである。
わかの浦に潮満ち来れば潟を無み
葦辺を指してたづ鳴き渡る (赤人)
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