「歌で読みとく日本歴史」
第2部 「神代(かみよ)の文化」
「昭和への遺書」岡潔著
【6】武士道
世はついに乱れて武士が出て来る。そうして実朝の歌が
出る。
箱根路をわが越え来れば伊豆の海や
沖の小島に波の寄る見ゆ
荒海の磯もとどろに寄る波の
破れて砕けてさけて散るかも
うまい歌であるが調子はもはや弱々しくなって神代調の
雄大さ雄勁さは全くない。日本国の基盤はすっかり弱くなってしまったのである。何よりも仏
教がわるい。
それから国が大いに乱れて、英雄は日本ではこういう時
にしか出てこない。それがしずまって、芭蕉の俳句が出るのであるが、芭蕉は俳諧は万葉の心
なりと言っているけれども、雄大で雄勁な神代調はそこには見られない。それは、神代調の歌
はじかに智(知、情、意と分かれる前の心の姿)をよんだのに反し、芭蕉は専ら情緒をよんだ
からであって、雄大とか雄勁とかいう要素は情緒の世界にはないからである。だから万葉の心
なりと言ったのであろう。
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