(※解説19)
ここまで「明治文学者の心」からはじまって日本歴史を 遡り、江戸時代の芭蕉にみる神代調の復活から、戦国時代の武士道と仏教の移入による対立と混
迷、そしてもともとの万葉の神代調、すさのおの命の歌というふうに、日本歴史を一目で見て きた訳であるが、ここに出てくる神武天皇によって初めて30万年に及ぶ日本の古代と、有史
以後の日本歴史とがやっとここでつなかったのである。
その辺をもう一度整理すると、日本民族は30万年かけ て心の世界の階段を登り、第8識、第9識、第10識と次第に心が向上し、いわば自らの心の
世界が深まってきたのである。日本列島に居ついて1万年、この豊かで繊細な自然によってそ の心を更に磨きをかけ、第10識(情の世界)が一般常識であると日本人の誰もが思えるとこ
ろまで辿りついたのである。これが岡のいう万葉の「神代調」である。
そこへ東洋から第8識、第9識の儒教や仏教が入ってき て、日本は東洋の有形文化とひきかえに、度々の戦乱など心の世界の不純物(知と意の濁り)
に長い間苦しんだのである。それは今日まで暗に影響を及ぼしてはいるが、主に江戸時代まで のことである。
その後、第7識である西洋の「力の思想」と「物質主 義」が明治維新と共に流入し、戦後はアメリカの第7識の中でも表層である「能率文明」が怒
濤のごとく流れ込み、その結果「高度経済成長時代」という人類はじまって以来の物質文明が 大いに栄えたのであるが、逆に日本の心の世界は第7識という最も低いレベルにまで落ちてし
まったのである。残念ながら、これが現在の日本の状況である。
さて最後になるが、我々は長い間、西洋の歴史観の影響 を受けて歴史とはせいぜい2千年か、もしくは物質文明のみが発達したこの2、3百年か、酷
いのは人や社会は5年や10年で変わり得ると思っているきらいがあるが、数十万年に及ぶと いわれる人類の進化の歴史と、万年単位でしか変わらないと岡のいう「人の心の構造」とをあ
わせ考える時、岡の仮説であるこの歴史観は次第に説得力をもって我々に迫ってくるのではな いかと、私はそう思うのである。
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