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2015.02.09up

岡潔講演録(13)


「人とは何か」

【5】 トランジスターの女工さん

 ところでわたし、百姓の場合は上手く行ってましたが、工場の職工達にたいして果して上手く行くだろうかと、少し危惧の念を抱きました。それでソニーの厚木工場へ行ってみた。工場長の小林茂さんに案内してもらったんです。

 あそこはほとんど東北の田舎から出てきてる娘さん、中学を卒業したばかりの娘さん。で、ちょうどトランジスターの部分品を作ってましたが、これ実に細かい細工ですが、全く無心に働いている。そして目にも頬にも生気があふれている。

 小林さんの話では、トランジスターの型を変える時、古い型に別れを惜しんで泣くと云います。自作自受は完全に行われてる。実際こんなふうにして3年間働いてますと、、顔も仕草もだんだん麗わしくなっていって、郷里へ帰るとお嫁に引っ張りだこだということです。わたしは嬉しくて涙が出ました。

 で、自作自受は工場でも完全に行われている。本当の自分を自分だと思えばいい。本当の自分を自分だと思いますと、五尺のからだとその機能とを自分だと思いさえしないと思います。

(※解説5)

 昔から日本のお百姓が感じている「自作自受」という無上の幸福を、工場のトランジスターを作る女工さんたちが同じように感じているということを岡はここで発見して、非常に嬉しかったようである。

 このことを「戦後これほど嬉しかったことはない」と岡はいっているが、この「自作自受」が実は戦後日本の空前の経済成長の隠れた原動力となったのではないだろうか。

 西洋の「労働観」は「力の思想」から生まれた奴隷制の名残りがあると岡は見ていて、企業は労働力を金で買っているということだから、労働者の労働はただ単に生活の糧を得るためだけのものであって、労働そのものに「無上の幸福」を感じるという発想は西洋には余りないのである。

 昔からの日本人の「はたらき好き」は内面的に見ると、この「自作自受」から来ているのであって、このことはこれからの日本人の、ひいては人類の「労働観」を考える上で大きな示唆をあたえるものである。

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