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2015.06.11up

岡潔講演録(15)


「秋が来ると紅葉(もみじ)

【10】 数学上の発見

 創造についても同じですが、創造、クリエーション。発明っていうことと結びついて、非常に創造と結びつく訳なんです。私、数学の研究をやりました。それで数学上の発見は1つの創造です。で、それについて申しますが、これは同じことですから。1912年に死んだフランスの大数学者にアンリー・ポアンカレーという人があります。この人がいろいろ本を書いてますが、そして訳されて岩波文庫に載ってますが、そのうちに「科学と方法」という本がある。

 その1章に数学上の発見というのがある。ポアンカレーはここで自分の数学上の発見を数々述べて、そうしてそのあとでこういってる。「数学上の発見は特徴、3つある。1つは一時にパッとわかってしまう、瞬間にわかってしまう。第2は理性的活動なしに起こったことは何時もない。しかし、その時期は随分ずれる。それも1年とか1年半とか経ってからのことが多い。

 第3は結果が理性の予想の範疇の中にあったことはない、理性の予想通りであったことはほとんどない、大抵は予想とは違う。この3つの特徴を備えているが、これは如何なる知力の働きによるのか、誠に不思議である」と、そう書いている。

 それで、この問題はヨーロッパの文化の核心に触れた問題ですから、それでフランス心理学会が早速これを取り上げて問題にして、当時の世界の大数学者に、「あなたはどんな風にして数学上の発見をしておられますか」と問い合わせた。その返辞の大部分はポアンカレーがいった通りだった。これで問題は確立した訳です。

 しかしながら、その後この問題は解決に向かっては一歩も進んでいない。それはフランス人は、まあヨーロッパ人はっていっても一緒ですが、2つのことを知らない。頭頂葉に宿る心がある、第2の心があるということを知らない。もう1つは無差別智というもののあることも知らない。これじゃあ解決に向かって近づくはずはないのです。

(※解説10)

 ここは岡の専門の数学についての話であるが、西洋文明の心臓である数学の世界を相手にまわし、独りこんな大胆なことがいえるとは流石に日本文化の自覚に徹した世界的数学者である。

 これは要するに、西洋人は無自覚的に数学的発見をくり返してはいるものの、そのメカニズムについては何らわからず、それを明らかにするためには西洋文明だけでは不十分で、日本人がそのメカニズムを実地に証明していかなければならないという、多分今日の日本の数学界では想像もつかないことを岡はいっているのである。

 それは日本人の数学的発見が岡の実例によって、西洋よりも遥かに純度が高いということがわかってきたからであると共に、これからの数学の方向性と数学的発見のあり方が真に問われているのである。

 岡は今日の数学は「数学の理想」からは程遠い水増しした論文ばかりで、世界的にみても既に行き詰まってしまっているから、日本人が岡にならって「春の泉のような」数学を始めるべきであるというのである。その辺のことは、やはり「人間の建設」に詳しい。

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