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2015.2.14up

岡潔講演録(17)


「1969年の質疑応答」

【22】 精神分裂症

(岡) あなた、「懐かしさ」ありますか。仏教で平等性智という。平等性智が大宇宙を支えてるという。平等性智とは何かといえば、「懐かしさ」のことですよ。精神分裂症っていうのがあるでしょう。ボヤーッとする(笑) 「懐かしさ」が足りない。前世に利己的過ぎる。ただボヤーとするそれが「懐かしさ」です。だから利己主義であっちゃあ駄目なんです。「懐かしさ」が足りなくなる。わかりますか。治りませんよ、あんな者ちょっと。

 前世でひどく利己的だった。それで初めから、粘土でいえばサクサクした粘土。それで、あるところへきて破綻が出る。そしたらボヤーッとするまとまらない。「懐かしさ」って言葉でいったって内容わからんでしょう。それを知らなきゃいかん。ひとは1個の有機体と普通いってますが、1つの「もの」でしょう。何故、1つの「もの」にまとまってるのかと思わないといけない。「懐かしさ」です。仏教は平等性智という。足りないと精神が分裂する。

(※解説22)

 岡はここで「懐かしさが足りないと精神が分裂する」という誠にユニークな発想を展開している。とても現代心理学では考え及ばないところである。

 現代心理学では、仏教哲学の説く宇宙に遍満する4種類の直観(その1つが平等性智)の知識がまるでないため、ただそういう心理現象に「精神分裂症」という名称をつけるだけで、その根本原因については一向説明できないのである。

 岡は仏教哲学の「平等性智」を日本風にいいかえて「懐かしさ」だというのであるが、日常のマスコミのニュース等を見ていても、社会全体が次第に「狂」ってきているという印象を受けるのである。そして、その原因をさぐっていくと他の角度からも考えられるが、要するに人が本来持っている「懐かしさ」の喪失からくるといえるのではないだろうか。

 岡は次のようにいっている。「生まれたばかりの赤ん坊は人を見れば人が懐かしく、音楽を聞けば音楽が懐かしく、天井を見れば天井が懐かしい」と。

 人は生まれた時、既にそうなのである。だから人は生まれてから「懐かしさ」を身につけるのではなく、逆に「懐かしさの世界」から生まれてくるといっても過言ではないのである。

 それは赤ん坊だけではなく、人は大人になってもその世界に実は住みつづけているのであって、そのことを生まれて3年目に芽生える「第1の心」によって忘れてしまうから、精神が分裂するようになるのである。

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