(※解説22)
岡はここで「懐かしさが足りないと精神が分裂する」という誠にユニークな発想を展開している。とても現代心理学では考え及ばないところである。
現代心理学では、仏教哲学の説く宇宙に遍満する4種類の直観(その1つが平等性智)の知識がまるでないため、ただそういう心理現象に「精神分裂症」という名称をつけるだけで、その根本原因については一向説明できないのである。
岡は仏教哲学の「平等性智」を日本風にいいかえて「懐かしさ」だというのであるが、日常のマスコミのニュース等を見ていても、社会全体が次第に「狂」ってきているという印象を受けるのである。そして、その原因をさぐっていくと他の角度からも考えられるが、要するに人が本来持っている「懐かしさ」の喪失からくるといえるのではないだろうか。
岡は次のようにいっている。「生まれたばかりの赤ん坊は人を見れば人が懐かしく、音楽を聞けば音楽が懐かしく、天井を見れば天井が懐かしい」と。
人は生まれた時、既にそうなのである。だから人は生まれてから「懐かしさ」を身につけるのではなく、逆に「懐かしさの世界」から生まれてくるといっても過言ではないのである。
それは赤ん坊だけではなく、人は大人になってもその世界に実は住みつづけているのであって、そのことを生まれて3年目に芽生える「第1の心」によって忘れてしまうから、精神が分裂するようになるのである。
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岡潔講演録(17)1969年の質疑応答
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