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2016.05.16up

岡潔講演録(18)


「創造の視座」

【12】 大脳側頭葉①

 ところで、アメリカに科学雑誌がある。私その名は知りません。しかし、その愛読者を2人知っている。私はその2人の愛読者から3つのおもしろい話を聞きました。それをお話ししようというのですが、それではあまり頼りない。それで2人の愛読者の1人のお名前を申しますと、それは岩波新書の「脳の話」を書いた時実利彦先生です。

 大脳生理学は、大脳を5つの部分に区分している。その1つに大脳側頭葉というのがある。大脳の耳の辺に左右2つに別れておりますが、連絡がついているから、1つとみなしている。この大脳側頭葉は、大脳のうちで機械的なことを司っているところなんです。知覚、機械的判断、記憶、言語、そういうことを司っている。

 機械的な働きだから、ここは調べやすい。それでアメリカの医学者や心理学者が好んで側頭葉を調べた。それで側頭葉の働きがだんだんよくわかってきた。ところが、あるところを過ぎると、だんだん不思議になって、わからなくなっていった。

 それはどういう点においてかといいますと、大脳側頭葉を機械だとすると、これを動かすに要する電力は10億キロワットと算定される。しかるに、人の場合は実際は25ワットぐらいしか使っていないらしい。不思議だというのです。

 これは側頭葉のいろいろな働きを、時間、空間のないところでやって、その結果を時間、空間のあるところへまた持ち出すんだろう、こんなふうに考えられる。時間、空間のないところにはエナージーも要りませんから、そこで太閤さんは、墨股(すのまた)城を安全な地で組み上げて、プレハブ式に敵の危険にさらされているところへ運んだ。

 そんなふうに第2の心の中で機能を組み上げて、それを時間、空間のあるところへ持ち出しているんだろう。そんなふうに想像される。ともかくアメリカ人はそんなこと知りませんから、不思議だ、不思議だといっている。

(※解説12)

 「第1の心」の物質主義の伝統をひくアメリカは、大脳機能の最も浅いところ、つまり岡の指摘する側頭葉の「機械の座」を調べた結果、それがあたかも大脳機能の全てであるかのような今日の大脳生理学を作り上げたのである。

 しかし、その側頭葉でさえ、いかに霊妙きわまりない働きをするところかということが、大脳生理学自体の方からわかってきたのであって、岡はその証拠として10億キロワットと25ワットの違いをあげているのである。

 このことは時間空間のない「第2の心」を設定しない限り、説明の仕様がないのであって、これはとりもなおさず「素粒子論」と同じく、「大脳生理学」の自己否定ということになりそうである。

 因に、岡の大脳生理のスケールの大きさを簡単にご説明すると、今盛んにいわれている記憶の量と処理速度を重視する「機械の座」が側頭葉。時間空間の中で「感情・意欲・理性」の働く「自我意識の座」が前頭葉。時間空間を超越した仏教でいう「真我」、岡のいう無私の心である「第2の心の座」が頭頂葉。そして最後に1識1万年をかけて人が段階的に向上するために使うと岡のいう「認識中枢の座」が後頭葉ということになるのである。

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