岡潔 「創造の視座」の解説
講演日 :1970年7月25日
於 大阪
横山 賢二
はじめに
前回までは岡の1969年の講演録をご紹介してきたのだが、今回はその翌年の1970年の講演録をご紹介しようと思う。
といっても1969年に発見された世界観「2つの心」は人類にとって初めての世界観であるものの、1972年の「第10識、真情の世界」の発見までそれほどその内容に変化はなく、最晩年の凄じい勢いで進展する岡の境地に比べると、3年という相当長い足踏み状態が続くのである。
従って前回までの1969年の「2つの心」の世界観は、その3年の間に詳細はすべて言い尽されていると私は思うのである。
ただ今回ご紹介する1970年7月25日、日本能率協会主催の大阪で行われた講演「創造の視座」は、岡の資料の中でも珍しく午前と午後の2回にわたり5時間にも及ぶ内容のもので、この時期の岡の思想を余すところなく網羅した、いわば「2つの心」の世界観の「集大成」といってもよいのである。
そう言う意味では皆さんにご紹介する1970年の岡の講演録としては、これ1つで十分ではないかと私は思うのである。
さて、ここで1つ言い添えておきたいことがある。この1969年という年は、実は岡が京都産業大学で「日本民族」というテーマで週1回の講義をはじめた年であり、おそらく1年間で25回ほどの講義が行われたはずである。
しかし、講義の録音が残されているのは1971年から77年までであって、この69年と70年の2年間はどのような内容の講義がなされたのか、今となっては知るすべはないのである。多分「2つの心」の世界観をベースにして、さぞ内容豊かで多岐にわたる講義ではなかったかと私は想像する。
1969年というと私が19歳の時であり、灰色の浪人生活を東京で送っていた頃であるが、もしも岡の講義が京都で行われていることを当時の私が知っていたら、私は躊躇なく浪人生活をかき捨てて、何としてでも京都へ赴いたはずである。
私にとって、その人類の宝庫となるはずの岡の講義の録音が当時とれなかったのは、今となっては断腸の思いである。しかし、そのかわりこうして微力ながらも岡潔思想研究会をひとり立ち上げて、いまだにベールに包まれている岡の晩年の思想を世に伝えることができていることが、私の唯一の慰めでもあり誇りとするところでもある。
それというのも多分京都産業大学の講義の内容は、今まで私がご紹介してきた1969年の講演録の内容と、そんなに違うものではないはずだからである。
目 次(下の項目をクリックしてお読み下さい)
【1】 巻頭言
午前の部
【2】 第1の心
【3】 第2の心
【4】 万葉の歌
【5】 自然は映像
【6】 仏教の空
【7】 西洋は時間、空間
【8】 実数の全体
【9】 時空の枠
【10】天と地
【11】唯物主義
【12】大脳側頭葉①
【13】大脳側頭葉②
【14】日本の学問
【15】無差別智①
【16】無差別智②
【17】リンパ細胞
【18】無差別智③
【19】東洋の大脳生理
【20】情緒と心眼
【21】夢のメカニズム①
【22】夢のメカニズム②
午後の部
【23】目覚めた人
【24】赤ん坊の世界
【25】器用さのメカニズム
【26】頭脳のタイプ
【27】西洋人の創造
【28】前頭葉の鍛え方
【29】東洋の天地創造①
【30】東洋の天地創造②
【31】月読と天照
【32】第1段の目覚め方
【33】第2段の目覚め方
【34】天つ神と国つ神
【35】人生の回顧
【36】自由作文
【37】教育への警鐘
【38】異文化の輸血
【39】日本民族はスミレ
【40】オオカミ少女
【41】日本民族の足跡①
【42】日本民族の足跡②
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