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2016.05.16up

岡潔講演録(18)


「創造の視座」

【18】 無差別智③

 またアマガエルがすぐからだの皮膚の色を周囲の色に同化する。カメレオンも同じようなことをやる。これはなぜか、これも妙観察智の働きです。全体に合わせて全体と同じ色を部分がとる。妙観察智の働き。

 これが定着すると蝶の羽根の模様になる。蝶は羽根に美しい模様を持っている。しかも青い木の葉のところにいるものはまるで木の葉が飛んだかと思われるようなきれいな模様です。花の中にいるものはまるで花弁が舞ったかと思うようなきれいな模様です。なぜか、これも妙観察智の働きですね。

 トーモロコシは台風を予知する。台風がその日の午後には来るという午前中には、腰を折って背を低くし、葉はみな巻いて待機の姿勢にある。これは台風を予知しておるんですね。トーモロコシにどうして台風を予知することができるかというと、これは大円鏡智の働きです。そんなふうに植物にも第2の心というものはあって、むしろそれは第1の心という月の黒雲のようなものがなくて、邪魔しないから、よく働くんですね。

 また、下等動物にも第2の心はあって、下等動物は第1の心が発達していないから、動物のときは植物ほどじゃありませんが、それでも月の光をおおう黒雲は薄いというわけで、無差別智がよく働くのです。トーモロコシなんかよく台風を予知する。蝶は自分の背中にきれいな紋をつける。アマガエルはすぐに周囲の色と同じように皮膚の色を変える。そういうふうなことができるんですね。

 ところで、第2の心から物質が出てきている。安定な素粒子群というふうなものもあって位置は不変だけれども、内容は時間も空間もない第2の心から出てきている。こういうことになる。

(※解説18)

 ここには無差別智の具体的な例があがっているのだが、私なりにもう少し掘り下げてみたい。

 先ず妙観察智の例としては、海底のタコやヒラメが周囲の色に瞬時に同化することである。彼等は自覚しないが、妙観察智を使って周囲の色に自分がなりきることによって、周囲の色と同じ模様を自分の体につけているのである。

 我々人間でいえば、楽しい人に会えば自然と顔がほころぶし、いやな人に会えば自然と顔がゆがむのと同じである。人もタコも生理は同じで、これが妙観察智である。

 運動についていえば、タコの足は8本あるし吸盤は無数にある。それらが別々の働きをしつつも1つの統合的な1匹のタコの動きになるのも、「一即多、多即一」という特徴を持つ妙観察智の働きである。

 100本の足をもつムカデの足が決してもつれないのも不思議であるが、そういう見方で見れば我々人間の方がより不思議である。人には400以上もの筋肉があるというのだが、その1つ1つの筋肉が統合的に働くから我々の日常の体の運動が可能なのである。

 そればかりではない、人がただ単に直立すること自体、その400の筋肉の絶妙なバランスが働いているのであるが、皆さんはそういう眼でご自分を見たことがおありだろうか。

 アホウドリはテレビで見ていると、体重のせいからか時々着地に失敗する。しかし、我が家に遊びにくるスズメやメジロは枝から枝へ羽ばたいて瞬時に移動することをくり返し、それでいて決して失敗することがないのである。少しはバランスを崩すことがあってもよさそうに思うのだが、彼等はまるで吸いつくように枝から枝に完璧な移動をする。将来ロボットのスズメを作ることができたとしても、こんな運動能力はまず不可能だろう。

 また、我が家の窓から入ってくる蚊やハエは、その飛び方をよくよく観察してみると、鋭角的に瞬時に方向を変えることをくり返すのだが、2枚の羽根を使ってどうしてこんなことができるのだろう。

 我々人間の理性(意識的に順々にわかっていく知力)では、飛びはじめては加速し止まろうと思っては減速し、方向変えは一点で静止した上で再び向きを定めて加速することしかできないはずである。しかも、蚊やハエがその一瞬に飛ぶ距離は、人間でいえば何十メートルに相当するのである。こんなことがどうしてできるのだろう。

 岡は妙観察智を称して「行こうと思ったら、もう行っている」といっている。今の私にはとてもできないが、山崎弁栄上人が実際したように何十キロ遠くであろうとも、星の王子様がしたように何百光年先の天体であろうとも、一瞬で行けるはずなのである。だから蚊やハエがひと羽ばたきで、それよりも近い距離を一瞬で移動できるのは当たり前である。

 次は大円鏡智であるが、簡単にいっておこう。魚の回遊、鳥や昆虫の渡り、鳩の帰巣本能と呼ばれるものは全て大円鏡智の働きである。彼等には人間のように太陽や星の位置など「時間空間」というものはないから、「第2の心」に働く大円鏡智のいわば「神懸かり」にあうだけである。だから本人には自分は何をしているのか、どこへ向かっているのかの自覚はないのだが、それでいて目的地にはちゃんと着くのである。

 また岡がいっているトウモロコシだけではない。地震を予知するナマズもそうであるし、北国のカマキリは卵を翌年の積雪の高さの枝に正確に生むようである。こういった例はほかにも沢山あると思う。

 さて、今まで書いてきたことは、今日の自然科学では説明できていないし、説明しようとさえしていないように見えるのだが、その自然科学が行き詰まりにきている今だからこそ、この岡の説く「無差別智」をヒントにして自然現象を皆さんにもじっくりと考えて頂きたいものである。

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