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2016.09.18up

岡潔講演録(20)


「1971年度京都産業大学講義録第6回」

【6】 数学や物理学

 ところで、学問のうちで、この中で実証されたものが1つでもあると思いますか。一番こんなことのし易そうなのは数学です。ところがこれはずっと出来ると思ってたのですが、しかし段々やっていくうちに ― ここが西洋の偉いところ、偉いところって、こういうやり方をする者が是非いる。やっていくうちに、今日では数学が存在するということをいつかは実証出来ると思っている真の数学者は最早1人もいない。こうなる。

 じゃ物理学は、あるいは自然科学は、どちらでもよろしいが、狭く物理学と云っても広く自然科学と云っても同じことになりますが、これはこういう学問をつくろうと思ってたんですが、物理学とか自然科学とかいうものはつくれるはずがない、救うべからざる破綻にさしかかっている。

 それお話したでしょう。不安定な素粒子というものがある。それだけでも結構困るのに、その中には質量を持っているものさえある。これじゃもう全然お話にならん。だいたい物質という言葉は最早使えない。それが発見されるまでの言葉です、物質と云うのは。しかしわかりますから使ってはいますが、言葉がすでにこわれてしまってる。

 物質という言葉の本質的な性質は、不生不滅ということ。生まれたり滅したりしないということ。ところが質量を持ってる不安定な素粒子というものがあるんだから、それやっぱり物質と云うほかない。質量をもってますから。だからそんなものはあり得ない、考えられない。

(※解説6)

 ここも私には門外漢なので前項と同じく、岡の発言を別の角度から拾ってみたい。同じく「一滴の涙」より。

 『この実数が存在すると云うことを証明しようと思っている大数学者が最早いないと、これを認めてもらうのが随分難しいでしょう。(中略)

 この実数というものの存在が云えないんだから、直線上の点の全体と云うものが有るなどと云える筈がない。それなら時間などと云うものが有ると云える筈がない、ましていわんや空間などと云うものも。

 大して違やしませんが、それが云えるなら実数の全体を考えた時、その間に矛盾が起こり得ないと云うことが証明できるなら、そしたらユークリッドの公理体系の間に矛盾がないと云うことまで証明できます。しかし、(実数の全体に)矛盾がないと云うことをよし証明したところで、(ユークリッドの)公理体系に矛盾がないと云うことと、そういうものが本当に1つ有ると云うことの間の開きは大きいでしょう。ところが矛盾がないと云うことが証明できそうにないんです。

 そんな風で理論物理、他はとも角、時間空間がどうのこうのって、あれ後で更に複雑な空間を考えていますが、大体時間が有ると云うことが云えない。それから空間が有ると云うことも云えない。これは同じ程度に云えない。空間と云うのはユークリッド空間です。

 そしたら後、どんなに骨折ってみたところで、理論物理で証明するなんて云うのは始めからできないに決まったことでしょう。少しは数学者の云うことも理論物理学者は聞いて欲しいですね』。

 岡はこういっている。この辺のことについては、岡の資料の中では小林秀雄との対談「人間の建設」が最も詳しい。

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