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2017.03.13up

岡潔講演録(25)


「情を語る」

【9】 今は日本人の自覚のとき

 漱石なんか余計なこと「情に棹させば流される」っていうようなこと云うもんだから。あれ、漱石の云った言葉だから相当ひびいてます。

 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。

 って軽口云ってしまった。そんなこと、もう少し真面目になって、じゃ人はどう生きればよいのか。真情に生きればよい。で、情というものになかなか目がいかなかった。

 大体、中国も仏教も知だと云ってますからね。そうしてるうちに非情に負けてしまって、終戦後アメリカの習慣を大量に受け入れて、日本人本来の面目は全く失われてしまった。近頃だんだん帰りつつありますが。

 情を自分だと思ってる、これは日本だけ。東洋人は心を自分と思ってる。西洋人にいたっては情を自分でないと思ってる。そういうことをよく知って、情に他に真情がある、それが真の自分である、それが大和魂である。真情に従ごうのが道徳です。従って道徳なしに幸福というものは有り得ない。こういう根本、ここで一度よく自覚するのがよいと思います。

 ここ1、2年来、これじゃいけない、何か大切なものを無くしたんじゃないかと思って、それを捜し求める方へ向いてきてるようだから、この機会に日本人は応神天皇以後自覚しなかった自覚というものをすべきだと思う。

 応神天皇以前の生活はよい生活だったと思いますが、文献に残っていませんから証拠としてあげられません。非常によかっただろうと思う。ただ、ちっとも向上しようとはしなかっただろうと思う。大脳前頭葉も少しは使わなきゃいけないが、(笑いながら)使わなかったんだろうと思う。

(※解説9)

 「何か大切なものを無くしたのではないか?」と思っている日本人は近頃多いのではないだろうか。「日本人の忘れ物」等というタイトルの本は結構出回っているようである。

 これくらい「クール・ジャパン」の声が聞こえる中、日本人自身が自分とは何者か、さっぱり知らないのである。テレビの大河ドラマを見るのもよい、日本の伝統文化を習うのもよい、神社仏閣を廻るのもよい。しかし、その文化の根底にある「日本の心」が一体何なのか正確に掴まなければ、さっぱり腹に力が入らないではないか。

 応神天皇以後、1500年にわたって海外から文化を受け入れ、ここでそれらの文化を総決算して我々が「自覚」を得なければ、ご先祖様に申し訳ないばかりか、海外からの「クール・ジャパン」の声にも応えることができないのである。

 30万年をかけてここまで培ってきた「日本の心」を、乗るか反るか1500年で「自覚」することができれば丸儲けこれは岡の表現であるが、日本歴史は日本人が第10識「真情」を「自覚」するための最短距離の歴史だったと岡はいうのである。今は正にその日本歴史の画竜点睛の時である。

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