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2017.05.02up

岡潔講演録(26)


「情の世界」

【13】 公害をなくすには

 日本人は真情の世界に住んでいる。それを一口で言葉で簡単に云えばどういう世界かっていうと、懐かしさと喜びの世界です。

 赤ん坊は生後3ヶ月は、懐かしさと喜びの世界に住んでいる。私の4番目の孫は、だいたい生まれた時から絶えず同じ家に住んでいる。それで、心の生い立ちを初めてみることが出来たんです。

 生まれてから3ヶ月は懐かしさと喜びの世界に住んでいる。これはほねおって、そこから出やしないかと絶えず見守っている。

 別にどうしたっていうんでもないんですが、出たら何んとかしようと思って見守って、今ここまできたんです。懐かしさと喜びの世界にずっと住んでそこから迷い出さないようにして、成人式までもっていってやろうと思う。これが教育の根本です。

 各家庭がこれをやってくれたとするでしょう。そうすると70年たてば、日本の国の濁りはほとんど取れてしまう。総ては自ずから良くなるというか、万事はそれからだと云うか、ともかく公害なんかで例えば淀川なんかのきたない濁りがどうしても取れない。何故取れないかというと、人の心が濁っているから。公害をなくそうと思えば、情の濁りを取ってしまうことです。真情の濁りを取ってしまうことです。

 公害だけじゃない。総てがそうですが、もし各家庭が生まれたままの懐かしさと喜びの世界に、その子が住むということを失なわないで成人式までもっていってくれたら、そういうことを70年すれば、この国の濁りはきれいに取れる。

(※解説13)

 教育の根本を正すにも、世界を覆っている公害をなくすにも、「真情」の濁りを取ってしまうことであるという岡の指摘は、誠にユニークで簡単で、それでいて核心を突いている。

 中国では村や町が概して汚いばかりではない、公害がどうしてあれほど激しいのか。それは西洋のように公害に関する法律を「意志的」に守るという習慣(第1の心の意志の世界観)がない反面、あくまでも「知」重視であって、日本のように「禊」や「祓い」という「情」を清める「情の文化」がないためである。

 岡は「公害をなくそうと思えば、情の濁りを取ってしまうことです」といっているが、「情の文化」を持たない中国はそれができないから、掛け声だけで相変わらず公害が改善されないのである。

 それに付け加えるに、中国では社会面でも経済面でも、我々から見れば「不道徳」が横行しているように見えるのは何故か。岡はこういっている。

 「人に情あるが故に道徳というものが存在し得るのです」と。「情の文化」をもたないことが、中国の最大の弱点のように私には思えてならないのである。

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