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2017.05.02up

岡潔講演録(26)


「情の世界」

【14】 人はまだ人類になっただけ

 それから、学校について云うなら、人は実に悪いことをする動物。動物の中で本当に悪いことをするのは人だけ。これは大脳前頭葉がある為。大脳前頭葉の主人公が自我。

 孔子はこの自我を飼い馴らして、真情の命に従うようにするのに70年かかった。しかるに今の教育は、自我を主人公として行為するのが自主的であると教える。その他すべてそうです。

 これはアメリカのデューイの教育学による。これが如何に悪い教育か。自我を真情の命に服さしめるのが一番むつかしいのですよ。

 ひとはまだ人類になっただけ。ここのところがうまくいってない。で、非常にほねがおれる。それさえ出来れば、少なくとも孔子のようになれる。「欲するところに従って(のり)をこえず」という人になれる。それを教育は全然やらない。やらないだけならいいが、自我を奨励している。自我を著しく出すことを自主的と云い、自我のほしいままを自由と云っている。

 大脳前頭葉に対して如何に誤っているかということを、真情の世界に住むということがどんなに大事なことかということを、知りさえすればそれでよいのです。

 ともかくどの家庭も、子供は生まれた時そうなんだから、そのまま懐かしさと喜びの世界から外へ出ないようにして、成人式まで持っていくよう気を配ってほしいと思います。そうすれば、今見るからに冬枯れの野を思わせるような日本の国の心の世界も、いっぺんに緑の芽をふく。それをやらなきゃ、人類の滅亡は喰い止められない。

(※解説14)

 ここでは広い意味での「教育」の基本を岡は指摘しているのだが、この短い文章の中に人類の現状がいい尽くされていて、美事という外はない。人類はいまだ「自分とは何か」が確立していないのである。今までのように「自我」を自分と思って教育するのは大きな間違いである。

 人類は今や進化の頂点にいると思っている人があるかも知れない。しかし、岡から見ればとんでもないまだまだ野蛮であって、人はまだ人類になっただけだというのである。

 そのよい例が「自我を著しく出すことを自主的と云い、自我のほしいままを自由といっている」とは戦後日本の教育の欠点を美事に言い当てている。

 人類は「自我」を抜け出して、「情の世界」を確立して初めて大人になったといえるのである。しかし、それにどれくらいの時間がかかるだろうか。私には想像もつかない。

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