b 岡潔講演録(26):【18】 人類の向上とは
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2017.05.02up

岡潔講演録(26)


「情の世界」

【18】 人類の向上とは

 (質問) 先生、人類が向上するとはどういうことなんでしょうか。

 個人についてみると、情に深く根をおろしたものは無くならない。何が根をおろすかというと、情緒が根をおろす。その人に情緒が出来ると無くならない。すなわち、情緒というものは生あって滅がない。情緒は増える一方。だから情は豊かに深くなる。これが向上だと思う。それ以外に、人がだんだん幸福になるということは有り得ない。

 薪がだんだんふとるから、人はだんだん幸福になる。情だけが大宇宙の実体。一口に云えば、それがだんだん深くなるのが向上です。その為に大宇宙は営み続けているんでしょう。

 映像にすぎないものを実在だと思って、悲しんだり苦しんだりしている。悲しんだり苦しんだりするということは情のことだから、ここからが実在。それをやるから情が深くなる。だんだん向上する。

 だから人類の向上と云えば、情緒がだんだん豊かになることです。自然をみても、すみれの花が床しいというのが情緒の現われでしょう。あんなもの、始めから有ったんじゃない。雑草の花がすみれの花になっていくように向上する。

 動物の中で人だけが悪い動物だなどと云われるのも、そう長い間じゃないでしょうけど、今はそうなんです。こんな時期に、学校は孔子を見習ってもらわなきゃ。アメリカを見習ってもらったらしょうがない。(笑)

(※解説18)

 この人類の向上という問題に正面から答えたものが、今までの人類の知識の中にあるだろうか。岡は第10識「真情」を発見した矢先であるから、それに即座に答えられるのである。

 「情緒というものは生があって滅がない。情緒は増える一方。だから情は豊かに深くなる」。これがこれからの人類の真の向上だと岡はいうのである。

 西洋では第1の心の「自我」の満足が進歩だと思っているようだが、これは第7識の横這いであって進歩ではない。これをつづけると人類に滅亡しかないことがわかってきたからである。

 東洋の仏教は「空」を悟ることを目標としているが、これは先程の西洋の自我の世界を「空」とみる第9識の悟りである。更にまた、今まで人類はその第9識の「知」の悟りが最上だと考えてきたのだが、岡は第10識「真情」を発見して「情」が豊かに深くなることが真の向上だと、これからの人類の歩みを見据えた発想を展開しているのである。

 というのも、例えば進化論を日本人の目で見てみると、自分だけに情が及ぶ卵生の魚類、家族だけに情が及ぶ胎生の哺乳類、生物全体に情が及ぶはずの人類(それとは逆のことをしているのが今の人類であるが)と、長い年月をかけて確実に向上してきたのである。

 この見方で進化論を見ても、「情」が生物全体に次第に拡大してきていることがわかると思う。だから、これからの人類の進化もやはり「情」がキーワードになるのであって、今度は「情」の「拡大」ではなく「深化」が問題となるのである。晩年の岡の「春雨の曲」では、その世界を取り扱っているのである。

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