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2017.07.19up

岡潔講演録(27)


「情の構造」

【15】 真情と名誉心

 急を要するのは教育が急を要する。もう、こんなおかしな色に染めたままで、全くしようがない。だんだん偉くなって奉給があがるのが人生であるようなこと思って、こんなもの繰り返されたら、もう全然これ、生きているんかっていうようなものになってしまう。一生きりならたいしたことありませんが、そうじゃないんだから、これ繰り返すんだから仕様がない。

 名誉心がいかんのですね。情の世界に名誉心なんて兆す余地がない。あれ、孔子なんかがまいたんです、あんなおかしなもの。中国にはあるんですね。孔子ほどの人が、しゃあしゃあとしてああ云っているのをみても、あれがいけないっていうこと、わからんのだということ、わかるでしょう。それくらい東洋人は日本人に比べたら目が見えんのです。

 感情、意欲、理性と云っていますが、その意欲ですが、意欲をよくみますと、まあ、性欲という本能、目にあまる。これはまあ別、本能だから別として、その他の名誉欲、権勢欲、物質欲、これ、本になっているのは名誉心でしょう。そして、こんなものによって生きている人、大多数でしょう。これは仏教で云う人道中の餓鬼道です。その本になっているのは名誉欲です。

(※解説15)

 岡はこの時期、名誉心を最も嫌っている。岡は第10識「真情」を発見した矢先だから、第7識からくる本能や欲望ばかりではなく、第9識(知の世界)からくる「偉さ」を求めるという、いわゆる名誉心が鼻につくのだろう。

 たとえ自分は生粋の日本人だと思っている人でも、東洋の仏教や儒教の影響のある人は特に、この岡の嫌う名誉心が心の底流に潜んでいることが多いのである。

 これはこういった思想の方面ばかりではない。岡は当時の政界財界をも嫌ったのだが、その政界財界の人々の価値基準も、大概はこの名誉心にあると岡は嘆くのである。だからアメリカン・ドリームばかりではない、立身出世や名誉心を目標とする人生を、何の意味もない「愚劣な」人生だとまで言い切るのである。

 「人生意気に感じては
 成否を誰かあげつろう
 消えざるものはただ誠」

 と土井晩翠の言葉を借りて岡はよくいうのだが、「成功が人生の目的ではない」「成すべきことを成す」というのが岡の信念である。

 不肖私も甚だ未熟ながらも「人生意気に感じて」のみ生きてきたつもりである。

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