「岡潔先生と語る 」(2)- 西洋文明の限界 -
【16】第一の心の文明
(男性)現在の世界が、小我を中心にした人達によって大勢を占められているということは、どういうことが原因していると思われますか。
(岡)さあ、それ、神々はどういうつもりでこんなことをやらしてるんだろうと思って、わからんのですけどね。ともかく、欧米の思想がはいってきて、日本の思想は大変濁ってるんです。これをそのままにしては所詮うまくいかんのですけどね。
個人主義間違ってる、民主主義間違ってる、戦後大切に標語にしてるもの、みな間違いなんです。神々の意図はわかりませんし、日本の将来もわかりません。全然わからない。
(男性)先程先生は、西洋人は人を他人としか思えないとおっしゃいましたが。と云うことは、一面から云えば西洋に「疑う」という精神が強くあったと云えると思うんです。
(岡)「疑う」というのが第一の心の特徴ですね。
(男性)そういうことがあった訳ですね。「疑う」という精神が西洋にあったということが、自然の観察において、物質文明を築く上において、そうとう優位に働いたと云えると思うんです。
(岡)ええ、云えますね。だけどこんな文明築いたって仕方がないんですね。
(男性)そういう物質文明に対して、東洋が一時的には敗れた訳でしょう。
(岡)一時的にって、東洋はあんまり物質文明築いたことはありゃしませんけどね。
(男性)だけど西洋の軍事力と云いますか、経済力と云いますか、そういうものに一時的には東洋が蹂躙されたことは事実でしょうね。
(岡)この、どう云うかなあ。これ、勝つとか負けるとか云ったら同列のものですけどね。第一の心の働きと第二の心の働きとは同列じゃない。第二の心がよく働かなければ、第一の心がよく働いたところで仕方がない。だから東洋は、しばらくそうであるということを忘れた、とは云えますね。
(男性)と云うことは、第二の心が中心になって第一の心を制御するというような面において、東洋はそういう西洋の物質文明を制御するだけのものが無かったという訳ですね。
(岡)そういうふうなのがいいと思ってしまったんですね。東洋にも矢張り数からいったらわからない者が多いんですね。つまらないものを今いいと思ってる訳です。東洋の大先達の云ったことが、みんなによくわかってなかったんでしょう。
(司会)先生、そのことに関しましてですけれども、先生が以前何かにお書きになっておられましたが、今の人の世というのは結局熾烈な生存競争であって、本質において獣類時代だということだったですね。人類時代はまだ来ていないのだと、今は弱肉強食の獣類時代から人道的な人類時代への変わり目にあるんだということ。その辺のところを少し、今のお話に関係があると思いますので、話して頂きたいと思うんですけど。
(岡)今の世相は明らかに生存競争の世の中ですね。ところが生存競争というのは、強いものが勝つというので、これは獣類の心で、人の心じゃありませんね。だから生存競争の時代が今の時代なら、これはまだ獣類時代の延長であって、人類時代はまだ始まっていないと、そう云わなきゃならん訳ですね。
(司会)そういったことに関しましてでも、何かご質問ありませんか。中学生くらいの方もおいでですが、自分達はどういうふうにすればよいかというような、そういう率直なご質問がありましたら・・・
(岡)それはなかなか難しいですよ。
|