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2013.7.27up

岡潔講演録(7)


「岡の大脳生理」

【5】幼児と脳のはなし

岡潔集第3巻 1964年4月

 次は「創造」についてお話します。創造の精神とは何かといいますと、人は向上すべきものだと思うことです。何事もこれ無くしてはうまくゆきません。発見、発明、芸術品の創作みなそうです。これは大脳前頭葉の働きですから、何よりもここをよく発育させなければならないのです。記憶、知能などは大脳側頭葉の働きです。これらはその人の前頭葉がよく発育していてこそ、いわば道具として役に立つのであって、でなければ使えないのです。

 それだけならばよいのですが、前頭葉の命令なしに、側頭葉だけを使う練習をさせすぎますと、その子は前頭葉がうまく使えなくなってしまうのですが、頭は使うから発育するのが原則ですから、このやりかたはその子の前頭葉の発育を悪くしてしまうとしか考えられません。それについて、具体的な場合をお話しましょう。

 私の郷里は山家なのですが、聞けば近ごろたいていの家は電気オルガンを持っていて、小さい子供たちにオルガンの練習をさせているということです。側頭葉は簡単にいいますと記憶、判断をつかさどるのでして、前頭葉の命令によって働くことと、単独に働くこととあります。

 この単独に働くことが大変問題になるのでして、このうち単独に記憶することはたいしてかかわりはないように思うのですが、単独に判断すること(衝動的または類型的判断)は、もしそうするくせがついてしまうと、前頭葉を十分に働かせることができなくなりますから、できるだけ避けなければならないのです。私は前頭葉を使わないで、側頭葉だけで判断することはできません。ところがオルガンやピアノを技術を主にして、非常にひきたがってもいないのに練習させますと、これは典型的な衝動的判断ですから、郷里のこの新しい流行は非常に害があると思われます。

 どうしてこんなむちゃなことを始めたのか全く見当がつかなかったのですが、その後、大学入試は一本にして問題は能力増進テスト研究所が出す、という風説を聞いたのでわかりました。これは知能指数をふやす目的でやっているのだろうと思います。こんなことは決してなさらないようにお母さん方にお願いします。

(※解説6)

 ここは大脳生理と幼児教育について語ったところですが、大脳前頭葉と側頭葉の関係をこれほどわかりやすく説いた文章は、岡の大脳生理以外では他にないでしょう。

 時実利彦著「脳の話」の中にも「前頭葉は感情・意欲・創造の座、側頭葉は知覚・記憶・判断の座」とは書かれていますが、岡が主張するように前頭葉(人)が側頭葉(機械)を道具として使っているという構図は、今日の脳科学は勿論、当時の時実先生でも岡の理論を読むまでは持っていなかったのではないかと推測します。

 そして戦後は、アメリカの影響を受けて能率教育が盛んに叫ばれましたが、それが側頭葉教育というものでして、そのバロメーターがIQ、つまり「知能指数」というものです。今、受験業界ではそれを「偏差値」で表しています。そして、その側頭葉教育の方向性は、教育改革が盛んに叫ばれてきたにも拘らず、基本的にはいまだに微動だにしていないのが現状です。

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