「岡の大脳生理」
【13】創造の視座
エグゼクティブ.ソサイエティ 1970年7月
大脳生理学は大脳を5つの部分に分かっている。そして、これは西洋人が主として調べたのですが、大脳前頭葉を中心に調べられて、前頭葉は理性し、感情、意欲する。前頭葉が命令する。そうすると側頭葉が機械的な働きをして、これを助ける。また前頭葉が命令する。そうすると運動領がその命令を伝え、全身が意志的な運動をする。側頭葉が機械的な働きをもって前頭葉を助ける。運動領は意志的な運動をもって前頭葉を助ける。こんなふうに前頭葉中心に大脳生理学は述べられている。
で、頭頂葉と後頭葉の2つはあまり書かれていない。時実先生の「脳の話」には、頭頂葉や後頭葉の働きには何ら触れておられません。しかし時実先生の講演録を読んでみますと、頭頂葉は前頭葉の受入態勢のよって来たるところ、また、後頭葉は資料室だ、そんなふうに書かれている。ところで頭頂葉については、幸い弁栄上人が、前頭葉は理性の座、頭頂葉は霊性の座、そう言っていられる。
また、中国に黄老(こうろう)の道というものがある。この黄老の道の本に黄庭経(こうていきょう)という本がある。
この黄庭経に頭頂葉は泥洹宮(ないおんきゅう)のあるところだと書いてある。泥洹というのは有無を離れたところという意味です。それで第2の心の中心は頭頂葉にあるのだということがわかる。で、頭頂葉まではよくわかる。
ところで、わからんのは、後頭葉です。後頭葉は大脳生理学はただ資料室だとだけ教えている。また視覚中枢がここにあるということだけ教えている。それ以上何もわからない。ところで西洋人は大体前頭葉中心らしい。ところが東洋人はどうも後頭葉に住んでいるように見える。で、後頭葉をよく知りたいと思う。ところで、私、これに対しては発生的に見ようとしたのです。
私の4番目の孫は生まれたときから私と一緒の家にいる。だから連続的に観察することができて、赤ん坊の生い立ちというものが初めて私によくわかりはじめてきた。その発育ですが、頭の発育は上から下に及ぶものらしい。最初頭頂葉が発育する。それがだんだん下に下がっていく。
ちょうどその孫が、生まれて5ヵ月ぐらいのときですが、発育は前方でいえば、運動領(運動領といったら頭頂葉と前頭葉との間にあるんですが)に及んだらしい。その証拠に孫は足を動かすことに異常な興味を示しはじめた。
それでうしろのほうも同じ水準まで発育が及んでいるだろう。そうすれば後頭葉の発育も始まるころ、だから何か変わった現象が今に出てくるだろう、そう思って私は手ぐすねひいて待っていた。そうすると孫は目にものを言わせることができるようになった。それで私はいっぺんにわかった。
この第2の心の内容は、頭頂葉にあるときは大円鏡智の形である。これは動かせない。しかし心が流れて後頭葉に下りますと、ここは資料室といわれているくらい、ここには妙観察智が働いている。それで心の一滴一滴がその内容を無色の色にあらわす。で、無色の色のついた心の滴々の全体というような心になる。これが妙観察智態ですね。
私はこれを情緒と言って来た。情緒というのは、心の滴々がその内容を無色の色にあらわした心という意味です。これは後頭葉にあるわけで、こうなるとどんな細かいところを通ってどこへでも送ることができる。それで視覚中枢は、この無色の色のついた心をまるで漏斗が水滴を集めるように集めてひとみへ送っている。それで孫は目でものを言うことができるようになった。
この目を心眼というのですね。で、私も心眼で見るから、その孫の心を読みとることができる。かように心眼によって心をあらわすこともできる。また、あらわされた心を読みとることもできる。で、中国人は「君看(み)ずや双眸(そうぼう)のいろ、語らざれば憂いなきに似たり」こういう詩を読んでいるんですね。
この心眼によって見るから、日本人は春夏秋冬、晴曇雨風、千変万化の趣の変化のある自然を見ることが出来るんです。こいうものを見ることができるのはこれは肉眼で見ているのでなく、心眼で見ているのですね。また、この心眼で見るから俳句とか、短歌とか、そういう短詩形によってよまれた、それをよんだ人の心をよく読みとることができる。だから、日本では短歌とか俳句で十分なんですね。きわめて短詩形です。
フランスにボードレールという詩人がいる。ある人が、先生は短詩形がお好きだということですが、どれくらいの長さが適当ですかとこうたずねた。そうするとボードレールは、100句ぐらいと言った。で、西洋人には心眼が働いていないのですね。
一番はっきりわかるのは、後頭葉で情緒の形に変えたものを視覚中枢で集めてひとみに送っているということですが、そのほか情緒の形に変えれば、どこへでも送れる。それで、からだ全体へ送っている。その最もおもな輸送の経路は、情緒の中心へ情緒を集めて、これを交感神経系、副交感神経系でからだ全体へ送っているらしい。こいうことがわかってきた。
|