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2014.04.16up

岡潔講演録(10)


「民族の危機」

【18】 「無差別智」の働き  (不思議な数学上の発見)

昭和44年(1969)1月 - 2月

大阪新聞

胡蘭成(こらんせい)さんの云う悟り識とは何であるかと云うと、無差別智の輝きである。これは頭頂葉に汚れが無ければよく働く。欧米人は頭頂葉が汚れているから、無差別智は余りよく働かないのである。

 1912年に死んだフランスが世界に誇る大数学者に、アンリー・ボアンカレーと云う人がある。その著「科学と方法」(岩波文庫)に一章を設けて、「数学上の発見」と名づけ、自分の数多くの経験をくわしく述べ、そのあとでこう云っている。

 「数学上の発見は理性の働きなしには決して起こらないが、①そのわかり方は一時にパッとわかるし、②理性を働かせてからかなり時間が経ってから起こるし、③結果は大抵理性の予想とは違っている。まことに不思議であるがこれは一体どう云う知力の働きによるのであろう」

 フランス心理学会がこれを読んで、これは西洋文化の核心にふれた問題であるから、すぐにこれを取り上げ、当時の世界の主な数学者達に手紙を出して、あなたはどのようにして数学上の発見をしていますかと問い合わせた。その結果は大抵ボアンカレーと同じことを答えて来たと云う。

 これで西洋文化の基本問題の一つは確立されたが、解決には今日まで一歩も近づかないのである。私は数学を研究して度々数学上の発見をしてよく知っているが、これは無差別智の働きによって出来るのである。

(※解説18)

 さすがにポアンカレーは西洋の数学者の中でも一流であって、自らの数学上の発見をよく観察し、ここに挙げた3つの不思議な現象を指摘したのである。しかし残念ながら、その不思議を指摘したものの、西洋ではいまだにその回答は得られていないばかりか、そういう問題の存在すら気づいてないようである。

 また岡によれば「昆虫記」のファーブルも同じようなことに触れ、「昆虫の不思議な本能は幾代つづけて研究しても、遂にはわからないだろう」といっているということであるが、これも無差別智の働きである。

 シュタイナーのところでも触れたが、どうして西洋人は目には見えない「心」というものを見る眼がこれほどないのだろう。日本の数学者である岡潔は、仏教の無差別智(意識を通さない直観)によって、それに美事に回答を得ているのだが。

 彼等西洋人の特徴は「五感でわかるもの」しか問題にしないし、心については「意識でわかる心」しか問題にしないから、こういう結果になるのである。東洋では逆に「五感でわからないもの」、つまり「直観」と「意識でわからない心」、つまり「第2の心」しか古来問題にしなかったのである。

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