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2023.06.07up

岡潔講演録(30)


「岡潔先生と語る 」(2)- 西洋文明の限界 -

【18】 則天去私と第二の心

 (男性)第二の心って云うのは、夏目漱石の云う「則天去私」の延長ですか。

 (岡)いや、我々へいぜい人生と思ってるものは、大体第二の心の世界なんですよ。その第二の心にほんの符丁のように第一の心がある。欧米の真似をしてその符丁に気が取られてしまって、自分の住んでいる世界が第二の心の世界であるということを忘れてしまってるのが今の日本人です。あなた方の日常は大体第二の心の世界です。第一の心はそんなに働いてやしません。それを非常に働いてるかのごとく思い違いしてるんです。欧米の真似から来てるんです。

 (男性)則天去私とは関係のないものなのですか。

 (岡)何もそういう理想的なものを挙げなくてもよいんです。則天去私は矢張り第二の心ですけど。だけどあんなふうにならなきゃ第二の心じゃないかって云うと、今こうしてお話ししてる、この大体の基盤は第二の心がつくってるんです。こんな気分のもとに話してるでしょう。その気分というのは情緒です。この情緒は第二の心の内容です。大体今でも第二の心の世界に住んではいるんです。今の日本人でも、日本人の方が欧米人よりは第二の心の世界に住んでいる。アメリカの真似をしてる日本人でも、何となく日本人は日本人ですよ。それが第二の心です。いちいち数えあげると、昔よかったものはみな悪くなって跡形もなくなってるように思いますけど、大体は矢張り第二の心の世界に住んでる。

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